こんにちは。和尚です。
京都はお坊さんを大事にしていただける土地柄です。
托鉢となると遠くからおばあちゃんからお菓子をいただけたり、あるときはサングラスをかけたおもいっきりインパクトのあるその筋の方に手招きして呼び止められ、ドーンとお浄財をいただいたりと、特に修行中の雲水さんは人気があるようです。
今日はそんな素敵なおもてなしについてお話致します。

ナニってなんですか?
修行時代、たまにお参りがあるのですが、そこで様々なおもてなしをしていただけます。
各家のご先祖様にお経を唱え、ご供養の回向をさせていただいた後、そこでお昼ご飯をいただけます。禅宗ではこのおよばれのことを「点心(てんじん)」と言います。
中華料理でよく耳にすると思いますが、もともと中国からきた言葉で、間食や小食を指します。禅宗は「空腹(胸心)に点ずる」ということで、この言葉が使われています。
さて、このおもてなしされるお家の中にはそれぞれ個性があり、とてもユニークな方もいらっしゃって、雲水の間で「今日は〇〇さんのところでお参りだ!」なんて話題に上るほど。
そんなある日の朝「今日はMさんのところへお参りに行ってこい」と知客さん(しか 僧堂の運営を総理する上役)から指令が下りました。
私にとっては初めてのお家。
準備をしていると数人の先輩がそばに来てこんなことを言ってきました。
どんなことがあっても絶対「ナニってなんですか?」と聞いてはならない!
その内容こそがナニ?って感じですが、訳も分からず承知しましたと返事してお参りに出かけました。

すべてがナニ
教えられた地図通り到着すると、そこは立派な水道屋さん。お寺の水道もすべてこちらでお世話になっているそうです。
お店の横には立派なガレージが。そういえば先輩に、帰りは車で送ってくれるからお楽しみに、とも言われていました。このガレージの中の車で送っていただけるんだろうか・・・と思っていると、「どーぞどーぞ」と中へとご案内。
お座敷には立派な祭壇がお飾りしてあり、ちょこんと白髪の当主がお座りになられ、「今日はよろしくお願いします」とご挨拶されました。
とってもにこやかでやさしそうな方だったので、今日は気持ちよくお参りができそうだなと和やかな気分になりました。
と思っていると、当主さん
当「今日はナンですなー・・・。」
私「はい・・・」
当「いやー、今日はナンのアレで・・・ナンですなー。」
私「・・・はい?・・・」
当「そういえば、あの、なんのアレがなんでして、ほら、あのナニはナンでしたかいなー?」
私「・・・・」

さっぱりわからない・・・
困り果てた私をみて、またいつものが始まったかと慣れた様子でお母さんが、
「おとーさんおとーさん・・・、もう雲水さんがお参り始められるので座りましょう。」と助け船。
お参りはたくさんのご親族もおられ、とても厳かに行われました。さすが一流の本山御用達のお家柄。神仏共々大切に信仰されているのが伝わってきました。
さてお経が終わり、いよいよおよばれTIME。
私の横にはニコニコしながら当主がお座りに。そして開口一番。
当「さっきのアレは、ほんとうにナンでしたわいな。」
私「はい、ありがとうございます。(おそらく、さっきのお経はとても素晴らしかった的なことか・・・)」
当「ワシもむかしはナンでしてなー・・・。そのナニの手伝いにナニして、あの時はナニがアレしましたわ!ほんま。」
私「は、はい、ほんとうにそうですね。(なんかお寺の大きな行事のお手伝いで感動したってことか?)」
当「ところであのナニはどないなっとるんでしたかね?」
(きた!先輩からの命令で絶対ナニて何ですか?ときいてはならない・・・。しかたない!ここは適当に・・・)
私「はい。本山の改修(当時改修工事をしている場所があった)は順調ですよ。」
当「そーでっかそ-でっか!そらワシもナンですわ!ウチもナニしてますからなー。」
(当たった!イッツアミラクル!)
私「その節は大変お世話になっております。」
と、このように何を食べていたのか全く記憶にないほど、当主との会話に集中。
そしてついにおよばれTIMEが終焉に近づいたとき・・・
当「ほんならそろそろなんなんで、アレで雲水さんをナニしますか。」
と言って送っていただく準備のため、そそくさと例の車のガレージへ。
荷物をまとめ、玄関に出てみるとそこには・・・

自慢の外車のオープンカーで待ち構えた当主さん!
「どうぞどうぞ、ナニください。」←もう乗ってくださいってことでしょう
しかしこんなときって、どんな顔で乗っていいかわからない・・・。
雲水の格好でドライブ。案の定、止まる度にまわりからものすごい視線を感じながら送っていただきましたとさ。