こんにちは。和尚です。
禅の専門道場では、「接心」(せっしん)とよばれる非常に厳しい期間を雲水たちは過ごします。
私が修行していた天龍寺では月1回必ず1週間、この接心を行います。
内容を簡単に説明すると、とにかく坐禅と参禅(老師との凄まじい禅問答)のくり返し。更に先輩方の鬼変身。
血が全く通ってない顔つき、まさにサメのような目をしながら堂内を歩き回り、寝ている雲水を警策(坐禅の時の棒)で叩き起こしてきます。そして参禅ではチンプンカンプンな問答にわけが分からず答えると、獅子王のごとく鎮座された老師から恐ろしい喝が飛んでくるのです。
みんなこの接心が近づくと、胃はキリキリ、お腹がグルグルと、やる前から精神的に参ってしまうのです。
しかしこの恐ろしい接心が終わった翌日に見る空は、何物も代えがたい、カラリとした晴天を味わうのです。
さて今日は、そんな美しい空、ではなく、とんでもなく美味しいトマトジュースの話です。

地獄にトマトジュース
とある友人のお話から。
彼は小学校の時にボーイスカウトに所属しておりました。日々野外を通じて自然を学び、団体行動とサバイバル技術を身に付けながら育った少年時代。
なかなかハードながら、生きるためにとても役に立つ、そこで彼の性格は強く育まれてゆくのでした。
ある夏の日。キャンプのために野山を歩いていると、いつのまにか団体とはぐれてしまいました。
灼熱の太陽が降りそそぐ中、彼はさまよい続ける・・・
何とか山から降りることができ、そこに広がる景色は田園のど真ん中。
容赦なく照り付ける日差しによって喉はカラカラ、歩き続けてお腹はペコペコ。
どうしようもない状況の中あたりを見渡すと、ポツンと一機の自動販売機が!
「コ、コーラ飲みてー---!!」
最後の力を振り絞り、販売機にたどり着いてみると、ほとんど全部が売り切れ状態に・・・。
しかし目を凝らしてみると、たった一つのボタンが点滅しているじゃないですか。
「コーラ・・・、ではない、トマトジュース!?」
そう、彼はトマトジュースが大嫌いなのでした。
しかしこんな状況で背に腹は代えられない。
ボーイスカウトでは緊急時に帽子のサイドに50円玉2枚を忍ばしているそうで、まさに今はその時!
「チャリン」と2枚入れ(当時はまだ100円でジュースが買えていたのです)購入。
まずいけど仕方ない、と覚悟を決め口を付けると、
「!!!!!」
とんでもなく美味い!
まさに五臓六腑に染みわたるというのはこういうことだと。
それから大嫌いなトマトジュースが大好きになったのでした。今でもトマトジュースを開けると、その時の思い出が全身によみがえってくるそうです。
まさに青天の霹靂、廓然無聖、そんな究極なる出来事を味わった先に見る至福の瞬間は、経験した者でしかわからない境涯。
胸から湧き出る黄金の経験。真の青空。
地獄にトマトジュース、私も味わってみたいものです(笑)

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