公案

禅問答①~公案てなーに?四聖句・禅問答に入る前に~

こんにちは。禅宗のお寺、潮音院和尚です。

禅ていうと、なんだか凝り固まった厳しいイメージがあり、「厳しいし難しいしとっつきにくい」なんて思う方が多いんじゃないでしょうか?

でっかい字で荒々しく「禅」なんて書かれたのを見た日には、私でも構えてしまいます。

まずは禅問答に入る前に、ある日本の数学者のお言葉と、禅の基本となる言葉「四聖句」をお話していきます。

基本的な禅のイメージとしては、こちらのお話で優しく紹介していますので、どうぞ初めての方はご参考ください^^

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情緒

岡潔(おかきよし)という数学者をご存知でしょうか?

明治から昭和にかけて世界に名を残した孤高の数学者です。

「多変数複素関数論」という、とうてい私の頭では理解できないような分野に生涯を捧げた方です。

岡先生は教育者としてもすばらしく、情緒を養うことこそが人類の最たる道しるべだと提唱されました。

晩年は『春宵十話』という随筆を上梓されており、この一節に、このようなことが書いてありました。

「私は数学なんかして人類にどういう利益があるのだと問う人に対しては

スミレはただスミレのように咲けばよいのであって、

そのことが春の野にどのような影響があろうとなかろうと、

スミレのあずかり知らないことだと答えてきた。」

まさに禅の本質をついた言葉。

坐禅をして悟りを開けるのか・・・

無になりたい・・・

そこにこだわり続ける限りでは、先生のいわれるスミレではなくなるのです。


四聖句

雲水くん
雲水くん
臨済宗では特にこの公案をもって禅問答し合うことを大切にしているね。
和尚
和尚
修行中は老師と一対一になって、本気で問答し合う。

雲水は必死になって坐禅をして、ひねり出した答えを持ってくる。

「まだまだ!」と追い返されることの繰り返し・・・

雲水くん
雲水くん
「もうどうしようもない、何も出てこない;;」

というところから出てきた言葉や行動を無意識にしてしまう。

するとなぜか次の公案を言い渡されるんだ。

和尚
和尚
それが禅といわれてもなかなか理解が難しいので、まずは成り立ちからお話していくよ。

 

禅の基礎を築かれたのは達磨大師

あの「だるまさんが転んだ」の人。約5世紀頃、中国の少林寺というお寺の裏山にある洞窟で、壁に向かって9年間も坐禅した伝説のお坊さん。

彼は「四聖句」という4つの言葉を残しました。

  1. 不立文字
  2. 教化別伝
  3. 直指人心
  4. 見性成仏

 

不立文字

まずは一句目、「ふりゅうもんじ」と読みます。

雲水くん
雲水くん
文字を立てない?どーゆーこと?
和尚
和尚
これは「文字にとらわれない」ということなんだよ。
雲水くん
雲水くん
え?仏教ってたくさんの書物があるんじゃないの?それにとらわれないってどういうこと?
和尚
和尚
そう、仏教の一番大切な書物は4つあって、「律、経、論」というんだ。

「律」テーラワーダの風で説明したね。

「経」はお経。建前上だけど、お釈迦さまのことば。

「論」は仏教の緻密な哲学

雲水くん
雲水くん
ほら、これらの書物で仏教が成り立ってるのに矛盾してるんじゃないの?
和尚
和尚
禅で大切なことは字で読んで知識だけつけることよりも、体験を大切にしているんだ。もちろん文字は伝達手段で必要だし、禅問答も文字で伝えられている。

不立文字とは、字面ばかりを求めて体験や感じたことおろそかにしてはいけないってことなんだよ。

雲水くん
雲水くん
確かに知識はあってうまいことばかり言っている人よりも、実際素晴らしい体験をしている人ほうが、言葉の重みを感じるね。
和尚
和尚
みんな覚えた言葉や人の言葉を使いたがるけど、本当に心で感じたことを現すのには、言葉だけではできないってことだよ。

言葉を知ってても美辞麗句だけでは伝わらない。本当の体験から生まれた知識こそが大切である。

 

教化別伝

二句目は「きょうげべつでん」と読みます。

雲水くん
雲水くん
「教化」って教えを広めていくことだよね?

それとは別に伝わるってどういうこと?

和尚
和尚
ここは一句目の「不立文字」と繋がる言葉だよ。

膨大な書物によって知識だけを身につけ、それだけを頼りに教えを広めるのはいけないってことだ。

別伝というのは、体験によって心に焼き付いたことこそが「伝わる」ってことの本当の意味なんだよ。

雲水くん
雲水くん
なるほど。借り物の言葉では伝わらない。

教えを聞いて日々努力し、そこで得られた体験を自分の言葉で伝えていくことが大切なんだね。

教えを聞き、それを自分のものにするために日々努力する。何一つ欠けてはいけない。そこから出た言葉こそが本物。

直指人心

三句目は「じきしにんしん」

和尚
和尚
これは「体験」を重んじている句だよ。

例えば氷を知らない人がいたとしよう。

君ならどう伝えるかな?

雲水くん
雲水くん
えっと・・・、これは水が冷えて、塊になってとっても冷たいんだけど、温めると溶けるんだよ・・・って感じかな。
和尚
和尚
そうだね。これは君が体験しているから説明できているんだね。

ただそれでも知らない人にはまだわからない。

そのためには実際に触れてもらうんだよ!

そして氷というものを理解して、はじめて君の言ったことが理解できるんだ。

雲水くん
雲水くん
なるほど。たしかに同じ体験をしたもの同士だったら、たくさん説明しなくてもすぐ伝わるもんね。
和尚
和尚
そう。その体験こそ肝心なこと。つまり心で悟ったということさ。

あれこれ人の言葉に惑わされず、自分が体験してきた心に素直になって向き合ってみよう。これが「直指人心」なんだ。

体験によって得られた、自分だけの心に向き合うこと。

見性成仏

四句目「けんしょうじょうぶつ」

雲水くん
雲水くん
いよいよ最後の句だね。

なんだか「成仏」っていうと、幽霊が除霊されたイメージがあるんだけど(笑)

和尚
和尚
僕も昔怖がりで、暗闇で音がすると「成仏してくれ~」って思っていたよ(笑)

本当の意味は、「心の中にある仏に気づく」ってことなんだ。

雲水くん
雲水くん
仏さまっていろんな仏像があるけれど、あんな高貴な方々が自分のなかにあるの?
和尚
和尚
仏さまは雲の上の存在であるけれど、実は人間の心にも仏さまと同じ心が備わっているということなんだ。

仏さまとても素直で慈悲があって、いつも誰かをお救いされるという存在。

それが人間いつも汚い言葉や人を妬んだり、嫉妬したり、悪口言ったりしていると、どんどん仏さまの心が汚れてくる。

しかし先の三つの句を大切にして日々を送れば、自分の中にある仏さまに気づくというわけなんだ。

だから「成仏」とは決して超越した存在になるという意味ではないんだよ。

雲水くん
雲水くん
みんな仏さまの心があることに気づいていないんだね。

今日も一日、一瞬一瞬を大事に過ごして、自分の仏さまを磨いていこう!

仏になるのは自分の心しだい。今日素晴らしく感じたことを心に刻もう。

まとめ

四聖句まとめ
  1. 不立文字・・・字面だけを追ってはいけない
  2. 教化別伝・・・借り物の言葉では伝わらない
  3. 直指人心・・・心に響いた体験をもつ
  4. 見性成仏・・・ほら、もう仏はあなたの心の中だ