公案

禅問答④~無門関第一則「趙州無字(じょうしゅうむじ」犬に仏さまの心はあるの?~

こんにちは。禅宗のお寺、潮音院和尚です。

いよいよ公案に入っていきます。

みんな「無」なることが悟りだと思っていますが、この公案の「無」は何を指しているのか?

では解説していきます。

禅問答③~公案てなーに?「無門関」序 公案解読~こんにちは。禅宗のお寺、潮音院和尚です。 禅問答の公案について、第3回のお話です。 https://misyoukun.co...

趙州無字

無門関第一則

趙州無字(じょうしゅうむじ)

 

趙州和尚、因みに僧問う

 

「狗子(くし)に還(かえ)って仏性有りや也(ま)た無しや」

 

州云(いわ)く「無」

和尚
和尚
禅宗でよく「無になる」という言葉を使われるけど、ここから発祥していったものと思われます。

こちらは編集者「無門慧開(むもんえかい」はこの公案を解くのに6年間かかったそうで特に思入れがあるから第一則にもってきたこともあるんだけれど、この公案は同時に初歩であり、最終地点となるすごい公案なんだ。

雲水くん
雲水くん
僧堂でも初めて参禅(老師と対面して問答すること)したときに出された最初の公案だ!

いやー、さっぱりわからなかったよ。

和尚
和尚
そうだね^^

ボクもまだまだで、タイでこの公案を考えたよ。その回についてはこちらだよ。

ではご説明に入ります。

動物に仏さまの心?

雲水くん
雲水くん
ほんと短い問答だね。
和尚
和尚
そう。

だけどとっても奥が深くておもしろいんだよ。

登場人物はあるお坊さんと趙州和尚。

この趙州さんというのは公案の世界ではスーパースター。野球で例えると、イチロー選手みないなレジェンドってとこかな。

この内容をみてみると、あるお坊さんが趙州さんに質問しているね。

「狗子(くし)」というのは犬のことだけど、動物のことをいうよ。その動物に「仏性」が有るのか無いのか。

「仏性」というのは仏さまの心。つまり「悟りを開く能力」のこと

「涅槃経」では

一切衆生悉有仏性(いっさいしゅじょう しつうぶっしょう)

生きとし生けるものはすべて生まれながらにして仏となりうる素質をもつと説かれているんだよ。

趙州さんは「無」と答えただけ。

雲水くん
雲水くん
え?ちゃんと涅槃経にみんな仏性が有るとかいてあるのに、「無い」って言っているなんて矛盾しているんじゃないの?
和尚
和尚
そうなんだよ。

いったいこの「無」はなにを指している「無」なのか。ここがポイントになってきます。

涅槃経には生き物はすべて仏性があると書いてあるが、趙州は「無い」と答えた。この「無」について考えてみよう。

悟りとはなにか

和尚
和尚
この図をみてみると、みんな人間迷っていて、それを解決した状態が「悟り」となっている。
雲水くん
雲水くん
「悟り」ってのはなんだかとっても遠いもので、手の届かない偉大なもののイメージがあるね。
和尚
和尚
みんなそう思っているんだけど、実はお隣さん同士なんだよ。例えば紙の裏表。

表・・・字が書いてある=汚れている

裏・・・何も書いてない=キレイ

けれどこれ1枚は紙だから切り離すことはできないよね?

つまり「迷い」があるから「悟り」があるという構造で、切り離せないんだよ。

雲水くん
雲水くん
表裏一体ってことなのか
和尚
和尚
もう一つ例を出すよ。

あるスーパー金持ちの旅行者が、田舎の漁師に会いました。

その漁師は少しの魚を取って、お昼寝したりお酒や音楽を楽しんだりしていた。

旅行者はその姿を見て、「もっと働いて金をかせいだほうがいいんじゃないの?」と言うと、逆に漁師は「お金を稼いだらどうなるの?」と質問してきた。

旅行者は「そりゃお金持ちになって、余生はちょっと働くぐらいにして、あとはお昼寝してお酒や音楽を楽しんだりするんだよ」と答えた。

 

これは「メキシコの漁師と億万長者」という冗談話なんだけどね。

この話をみると、旅行者の目標は金持ちになってゆったりとした生活をする。

漁師はお金持ちという概念がなく、もう最初からその生活をしている。

つまり見かけ上は同じ暮らしなんだけど、それぞれ全く違うよね。

雲水くん
雲水くん
なんだか旅行者のほうがいそいそとしている感じで、たとえその生活が手に入っても、お金が無くなったらまた元の生活に戻りそうだね。
和尚
和尚
そうなんだ。

つまりこの話で同じように、人間も迷いがあるから一生懸命修行して悟りを目指しているけど、無理に悟った見かけだけの悟りと、漁師のように最初からそんな考えはない悟りとは違う。

ここがこの公案の大切なところなんだよ!

和尚
和尚
公案では「動物に仏性があるのか?」と聞いています。

この図を見ると、ネコはめちゃくちゃ勉強して、現代科学の粋を集めてついにスーパーネコマン(仏性)になった・・・とします。

これ、悟りですか?

ちがうでしょ?

雲水くん
雲水くん
うんうん。

たとえなったとしても、悟りとはいえないね。

和尚
和尚
本当はこういうことなんだ
雲水くん
雲水くん
迷っているのは人間てことか!
和尚
和尚
そう。この図で見ると、人間は「有る無い」で迷ってて、解決したら悟りだと思ている。

けれどネコはそんなこと考えずに最初から迷って生活なんてしていない。

ネコはそもそも悟りとかそんなことは関係なく、全力でネコなんだよ!

それが本当の「無」という意味なんだ。趙州さんはこの「無」をいっているんだよ。

雲水くん
雲水くん
なるほど!そんなことに迷わず、紙の表裏一体と同じと考えて生活すればいいんだね。
和尚
和尚
そう思えば、いろいろ小さいことで悩んでいたことも、そんな悩みは最初から無い!と気づけば心が軽くなるということなんだ。

今日も全力のあなたでいればいいんだよ^^

トラップ・相対・不答話

和尚
和尚
前の公案の解き方でお話した3つのポイント「トラップ」「相対」「不答話」をこの公案にもってくると・・・

トラップは人間が上、動物が下という部分。

相対は「有」「無」という比べる対象。

雲水くん
雲水くん
どうしても人間よりも動物の方が劣っていると思うもんね。

この趙州さんもさすがはスーパースター!お坊さんの質問にちゃんと正解を出しているんだね。

和尚
和尚
はい、ここもトラップです。

「質問ているお坊さんは下で、答えた趙州さんは上」という具合に「上下トラップ」に引っかかってる。

これ、実はどちらとも悟っている者同士の問答なんだよ。

雲水くん
雲水くん
え?普通質問した方が生徒で、答えるのは先生みたいに考えるじゃないか。

どちらとも悟っているってどういうこと?

和尚
和尚
そう思うよね。「無」にも2種類あることはわかったね?有無の迷いの「無」と、最初から無い「無」

お坊さんはこの2つの「無」を知っていたから質問して、趙州さんの「無」の方かー、と理解できているということなんだ。

これが最後のポイント、「不答話」なんだ。

もう最初からそのレベルでお互い問答しているんだということ。

雲水くん
雲水くん
なるほど、涅槃経には矛盾していない「無」なんだね!うーん、奥が深い!
和尚
和尚
しかしただ解き方をわかっただけではダメ。これからどう自分の「無」にするかが本当の禅の始まりなんだよ。

以上、「趙州無字」の解説を終わります。

まとめ

トラップ・・・人間と動物、趙州と僧

相対・・・・・有と無

不答話・・・・趙州と僧がお互い悟っている会話

最後まで見ていただきありがとうございます。

これからも仏教のことを頑張って皆さんにお伝えしていきます。

みていただければブログを書く意欲にもなります。どうぞよろしくお願いいたします。