タイ

続・テーラワーダの風②~伝説のお坊さんと山に住む仙人~

こんにちは。禅宗のお寺、潮音院和尚です。

前回はダモ寺到着直後、恐怖のコブラのお話をいたしました。

今回は伝説のお坊さん、過酷な登山と仙人のお話。

※こちらは2019年のお話となっております。

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伝説のお坊さん

昼間は先生を中心に、原始仏教哲学や、律(僧団で適用される法律)についての勉強会が行われます。

その中で必ずといっていいほどある伝説の比丘(お坊さん)のお話が出ます。

この方、私は一度もお会いしてはいないのですが、日本の禅寺で出家された後タイでも出家され、頭陀遊行ずだゆぎょう 最低限のものしかも持たず、戒律を守りながらあちこち旅をして、定住しない生活を自らの旨とし、ここタイではある山を瞑想の場として毎日登り降りして生活していたそうです。

登り降りといっても半端ではなく、当初は足場もないロッククライミング並みの絶壁朝には托鉢で降り、夕方になると瞑想のために岩場にしがみついて登る・・・、それを毎日・・・。バケモノです。

そして現地の人々が彼の行動を見て、その山を聖なる場所と崇め、政府を無視して勝手に階段を造ったそうです。それが前にお話したダモ山なのです。

鉄組だけで造られた簡易階段から見える雲海の風景と、伝説の比丘が足場として使った竹組の跡。

雲水くん
雲水くん
伝説のお坊さんて、なかなかパンチ効いてるねー!
和尚
和尚
現地のお坊さんや、お会いした先生の話を聞くとマジですごいよ!

もう超人だよ!詳しくは先生の本に紹介されてるよ。

 

私も研修時には必ず登るのですが、約1000メートルほどあるので、いくら階段になったとはいえ過酷であることには変わりありません。途中に彼が素手で登った絶壁の箇所がいくつかあるのが見えるのですが、自力で登るために掛けたのであろう古い竹が今でも残っています。

やっと登りきるとそこは雲海の上。仏塔が建てられています。

頂上の仏塔。信仰の力でこんな場所にも建てられる。

しかしこれは後から建てられたものであり、本来の場所はその横にある自然にできた鍾乳洞。ここで彼は毎日生活していたそうですが、この洞窟は当然の如くコブラが出るそうで、なんと彼はヘビ取りの達人だったらしく、物ともせずに瞑想されていたそうです。

 

しかしこの山頂にはコブラだけでなく、人も出入りするようになったので、その喧騒を避けさっさと別の場所へ遊行しにいかれたそうです。現在は海を越えて、スリランカの同じような山にこもっているそうな・・・

一体彼はここで毎日どんな境地になって瞑想していたのだろうか・・・。

カッコイイお坊さん

そのようなダモ山に野宿しろというのが今回の最大のミッションでした。しかも下見のために一度前日に行って来いと言われ、2日連続計2往復するということに。

禅僧たるもの弱音を吐いてはならんという思いで決意。宿泊当日のメンバーはというと、奥田比丘(日本の方)と山崎師と私、そしてスビン比丘という現地の比丘の4名。

このスビン比丘、年齢は20代で年下なのですが、とても心がおだやかで、何よりも男前お釈迦さんの側近であったアーナンダーという弟子は、非常に男前で女性にモテモテだったという言い伝えがありますが、彼を見てうなずけます。

 

比丘の衣装は、下衣(下着)、上衣(メインの衣)、大衣(マント)の三衣と律では決まっています。これら合わせて袈裟と呼ばれるのですが、キュッと引き締まった体に纏われた衣。葉巻のような細身のシルエット。そして地の一点を見つめながら托鉢に瞑想にと行ずる姿は、とても美しいものがあります。

この姿に感激し、信者は施しをしたいという気持ちになるのでしょう。日本の僧侶は少し恰幅のよい方々が多いような気がしますが、我々もこのような容姿を見習わなければなりません。顔だけは無理ですが。

話はそれましたが、私たちは衣と簡易的なテントを持ち、研修最後の晩をこのダモ山で過ごすこととなりました。

左から私、スビン比丘、奥田比丘。衣だけでもそれぞれ全く違いがあるのがわかる。

仙人

ダモ山の麓には髭の老人が一人住み着いています。この方、なんと仙人らしく、主に占いをしているそうですが、毎回行くとハンモックに揺られ、現地の人とただ茶をすすって談話しているだけです。

タイではけっこうこういった仙人みたいなひとがあちこちでいるそうで、身なりは質素ですがわりと偉そう。山の上では弟子みたいなお世話役がいました。

いきなりポップコーンみたいなものを撒き始めてとても胡散臭いのですが、なぜかその洗礼を受けて山に登るのです。そのポップコーンを無言で掃除する弟子は実にシュールでした・・・

謎のポップコーン。食べる気がしない。

前に述べたように、ここにも輪廻思想が生きています。仙人も出家者みたいなものだから、お世話すると功徳ポイントがもらえるみたいですね。

また温かい国ですから、食べ物にも困らない。一度市場へ買い物に行ったのですが、食べ物がそれはもう天上まで積み上げられているほどでした。道を歩いていても上を見上げれば果物がなっており、ほぼタダで取り放題。またそれが美味しい!

食べ物に困らないということは飢えない。心がおおらかなのは、食べ物が豊富という理由もあると考えられるのではないでしょうか。

仙人。もともとこの場所は仏教信仰でできたところなので、そこに住まわせてもらっているという思いがあるのか、行くとペコペコしながらもてなしてくれる。

ダモ山

ダモ山は数回登頂しているのですが、やはり暑さと階段の多さに辟易します。

お伝えしていなかったのですが、登り口がまたド派手!某ドラゴンマンガの「ヘビの道」のような大蛇のオブジェでスタート。「これが悟りの道だ!」と思いながら登っていくのですが、急こう配が凄まじく、何か所かは階段の幅ひとつがクツ半歩ぐらいの大きさで、足を滑らせたら最後、転がり落ちてしまうというのではないかというヤバい造り。

 

われわれはそのような道のりを乗り越えなんとか登頂。さすがにあの洞窟では瞑想できませんでしたが、夜が更けていくなかろうそく一本のわずかな灯りをもとに、幻想的に揺らめく白い仏塔の前で現地のお坊さんといろいろな考えや思いをぶつけあい、共に会話できたことが何よりも私たちにとって得難い経験となりました。

次の日はなぜか仙人もいっしょにみんなで托鉢しながら帰路に就き、この研修の最高の締めくくりとなりました。

帰りの托鉢前に記念撮影。「ヘビの階段」で仙人は恐縮しすぎてしゃがみ込んでしまった・・・。ちなみにこの場所は政府から立ち退きを強いられ、現在は仙人とそこに遊びに来る村人や、観光客だけとなっていた。

パート3に続く・・・